その他(報告書等)


<報告書

ミクロネシア・ヤップ島のシングルマザーとその子どもの社会的受容に関する文化人類学的研究-日本社会における婚外子差別の克服と新しい社会関係の樹立をめざして-

 平成11年2月 平成10年度笹川科学研究助成報告書,pp.1-10

本報告書では、家族社会学が問題としてきた嫡出の原理を再検討するため、ミクロネシアのヤップにおける家族構造の歴史的変換をあとづけながら、10代のセクシュアリティの通時的な統計分析、および社会構造分析を行った結果、妊娠率・出生率はここ10年間は他国に較べて高い数値を示し、社会変容に伴い近年多くの未婚の母が輩出されていることを析出した。しかし、彼女たちが厳しい差別を受けずに社会的に受容される背景には、外婚母系制や養取制度などの伝統的社会構造が関連しており、ヤップ社会においてはB.マリノフスキーの唱える「社会学的父親」が必ずしも重要視されないことを明らかにした。

A Brief Report on Pregnancy of Unmarried Woman in Yap State

 平成10年9月 A Report for Yap State Government, pp.1-6

本報告書では、婚外子出生率に焦点をあてたセクシュアリティの歴史社会学的研究をおこなうため、性行動が大変活発といわれるミクロネシア・ヤップ島で現地調査を実施し、それにより収集したデータの統計処理をおこない、未婚女性の妊娠・出産率、および十代の女性の出産率、各避妊法の使用率に関する歴史的推移を明らかにした。

シマの生活と文化-笠利町赤木名外金区地区の事例-

 平成7年3月 (社)奄美振興研究協会・(財)環境文化研究所, 奄美文化列島博物館をめざして<奄美群島文化振興調査報告書> ,pp.121-130 

本報告書では、奄美大島の笠利町赤木名外金区地区におけるシマの生活と文化に関する歴史民俗的実地調査から得たデータをまとめ、奄美文化の豊かさに関する価値観の再認識を促すと同時に、今後は従来のような外部の研究者のみによる調査・研究からの脱却をはかるため、自分たちの手による自分たちの字誌づくりの大切さを提言した。

伊賀地域の地域文化の特徴

 平成6年6月 近畿日本鉄道(株)・環境文化研究所」,伊賀地域における環境文化の再発見と地域振興方策に関する調査研究IGA PROJECT Vol.1 ,pp.137-144 

本報告書では、伊賀地域の今後のあり方を考えるにあたり、伊賀地域における歴史的民俗文化の特徴を現地調査を実施して抽出した。その結果、伊賀文化の特徴には食物や祭礼、方言、建物などに関西地方の影響が色濃くみられるが、伊賀は単に一方的に関西文化の影響を受けてきたというより、忍者や年中行事などにみられるような伊賀独自の民俗文化があり、それらが逆に関西文化にも影響を与えてきたことを示した。

コミュニケーション

 平成5年3月 奥伊勢ミルキーウェイ構想推進連絡協議会・環境文化研究所,「奥伊勢ミルキーウェイ・プロジェクト」報告書<若者定住計画策定業務>,pp.14-15

本報告書では、三重県奥伊勢の「地域住民からの盛り上がりによるによる活性化」を目指し、若者意識調査や若者研修会をおこなった結果をまとめ、その上で、当該地域における若者の間では近年特に嫁不足が深刻化していることを問題化し、その解決策として、地域の再評価や祭り・イベントによる地域間交流の促進、家族関係やジェンダーに基づく男女観の見直しを提案した。

漁民文化と地域振興

 平成4年6月 近畿日本鉄道(株)・環境文化研究所, 伊勢志摩の歴史文化的価値の再発見とリゾートを中心とする地域振興のための調査,pp.186-206

本報告書は、三重県志摩に観光リゾート地としてスペイン村が設置されることによる周辺地域の社会変化を考慮し、近隣の漁村の現地調査を通して灯台や方角石、日和山、鯨漁など、海と密接に関連する生活文化を抽出し、それらを活かした新しい観光形態を提案した。

「村ごとミュージアム」づくり構想-地域文化の継承と活性化のために-

 平成4年3月 長野県開田村・環境文化研究所, 開田高原エコリゾート構想<開田高原開発基本計画査定調査・報告書>, pp.58-100

本報告書では景観の保持という環境問題、および民俗文化の歴史性を踏まえ、長野県開田村における観光開発のあり方を再検討した結果、「村ごとミュージアム」計画を提案した。この計画は、村をひとつの天然のミュージアムとして捉えるもので、当該地域独自の歴史的遺産である木曽馬文化を中心とした自然・文化的資源を活かした環境学習型観光を目指すものであると論じた。

<ビデオ/シャーマニズムに関する生涯学習ビデオ

『死生観の人類学』(全2巻、各30分, 各巻25,000円)

制作:新宿スタジオ、蛭川 立・江戸川大学助教授と共作

要旨:(第1巻)「死をみつめる」:死を隠蔽したり否定したりせず、死をみつめ、肯定することにより、生もまた充実することを、タイのエイズ寺や死体博物館、ネパールの動物供犠、インドの「死を待つ人の家」、与論島の自宅死、沖縄の葬式、日本のホスピスやビハーラ運動などを通じて示す。「死」そのものをみつめるというQOD(クオリティー・オブ・デス)を提唱。

(第2巻)「死を体験する」:死を否定せず祝ったり、死者との交流を重視したりする文化があることを、バリ島の葬儀や、沖縄・タイ・モンゴル・ペルーなどでのシャーマンによる口寄せ・託宣、治療儀礼と、その背後にある彼らの世界観を通じて示す。そして、シャーマンたちの体験と臨死体験、幻覚性植物によるサイケデリック体験が類似していることを指摘する。本編は、超心理学の成果も、映像を用いながら紹介する。

『意識変容の人類学-シャーマニズムの伝統と現代-』(45分番組)

制作:新宿スタジオ、蛭川 立・江戸川大学助教授と共作

要旨:沖縄・ミクロネシア・ネパール・メキシコ・インドネシアなど、これまで実施してきたフィールドワークの成果をもとに、多くの映像資料を用いてシャーマニズム現象を社会構造や歴史との関連から実証的に論じた。文化人類学と心理学双方の視点からシャーマニズムにアプローチしていくという新たな試みである。(共作・共演者:蛭川立,画像制作:新宿スタジオ)←お求め希望の方は、塩月まで。著者割引で、約1万円となります。

<科研費(奨励研究A)研究成果(平成10~11年)

テーマ:「沖縄のシャーマニズムとエスニック・アイデンティティの形成に関する文化人類学的研究」

 

本研究の目的は、現代社会における沖縄シャーマニズムの変容を、シャーマン(ユタ)の語るエスニック・アイデンティティの分析を通じて明らかにすることにある。そのため、平成10年度はこれまで収集してきたユタの語りに、今回新たに調査収集したデータを加え、そこにみられる語りの変化を抽出した。その結果、一部のユタにみられた新しい語りの特徴として、以下の諸点が挙げられた。

 

1 「科学的」用語の多用

2 「ニューエイジ」的な用語の使用

3 対大和・対世界・対宇宙の中での沖縄(人)の位置づけへの言及

 

1に関しては、ユタは染色体やDNAなど生物学、元素など化学、電磁波・波動など物理学という科学的分野で使用されている用語を駆使して宗教的世界観を語っている。これは、ユタが自分の宗教的世界観の正当化・権威付けのために「科学的」用語を用いていると考えられる。

また、2に関しては、ユタが語る言葉には、神と交流し判示(託宣)をすることを「スピリチュアリズム」や「接触現象」と言ったり、災いの原因を「超常現象」、夢は「体外遊離」と説明するなど、いわゆるニューエイジ運動で語られる用語がみられる。

3に関しては、ユタによる「沖縄(人)」の日本の中、あるいは世界や宇宙の中での位置づけが語られる。具体的には、「沖縄は世界の根」、「沖縄の聖地、久高島はピカイアという古代魚の形」など、ユタは沖縄や沖縄の人々の古さ・正統性を主張する。このような動きは、現在進行中のグローバリゼーションにより、ユタの持つ世界観がシマという村落内から対大和をはじめ、対世界、あるいは対宇宙まで拡張していることからくるといえる。

 

 

•平成11年度は、沖縄のシャーマニズムとエスニック・アイデンティティの関係を、シャーマニズムの「政治性」という観点からより深く考察した結果、以下のような結論に至った。

 

1.現在、沖縄におけるシャーマニズムの変容は、「沖縄(人)」というエスニック・アイデンティティの再構築の動きへと収斂している

2.シャーマニズムの今日的現象として、沖縄以外の地域でも、シャーマニズムがエスニック・アイデンティティの再構築を促すという現象がみられる

3.シャーマニズムがエスニック・アイデンティティの再構築を促し、そのエスニック・グループの象徴となるのは、シャーマニズムが従来の権力(為政者など)に対する反権力装置となりうるからである

 

1.に関しては、前年度、沖縄ではグローバリゼーションのもと、ユタ(シャーマン)によるシマ(村落)を超えた日本や世界、あるいは宇宙の中での「沖縄(人)」の古さ・正統性を主張する動きが進行していることを指摘した通り、一見沖縄のシャーマニズムはニューエイジ文化などの影響で新たな展開を迎えたようにみえるものの、その変容は実はエスニック・アイデンティティの再構築を目指すものということを明らかにした。

また、2.に関しては、例えばモンゴルや旧ソ連、中南米などにおいて、民族主義の高まりの中、シャーマニズムの復権がみられるなど、シャーマニズムは今や沖縄以外でもエスニック・アイデンティティの再構築を促していることを指摘した。

そして、3.において、世界システムの中でシャーマニズムが、少数民族などいわゆる「弱者」にとってエスニック・アイデンティティの再構築を図るための戦略的表象となっているのは、もともとシャーマニズムに、従来の権力(国家や為政者などいわゆる「強者」)に対する「反権力装置」としての側面が内包されているからであると結論づけた。